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最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)940号 判決 1956年4月10日

主文

原判決を破棄する。

被告人四名を各懲役八月に処する。

ただし被告人四名に対し本裁判確定の日から四年間各刑の執行を猶予する。

押収の緩燃導火線七本(甲第六号証)はこれを没収する。

訴訟費用は第一、二審共全部被告人四名の連帯負担とする。

本件公訴事実中銃砲刀剣類等所持取締令違反の点については被告人四名は無罪。

理由

被告人の上告趣意について。

所論は刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。

弁護人竹沢哲夫の上告趣意第一点について。

所論は単なる法令違反の主張で、適法な上告理由にあたらない。のみならず、本件の番小屋が刑法一三〇条にいう「人の看守する建造物」にあたるものとした原判決の判断は正当であって、なんら違法はない。

同第二点および第三点について。

原判決は、被告人らが共謀のうえ、昭和二七年七月二九日『法定の除外事由がないのに拘らず……刃渡十五糎余の短剣一挺(甲第四号証)を所持』した事実を認定して(原判示第二の事実)、銃砲刀剣類等所持取締令一条・二条・二六条を適用しているのである。しかし、昭和三〇年七月法律五一号(同年一〇月一日施行)による改正前の同令一条にいう「刀」「ひ首」「剣」「やり」「なぎなた」とは、社会通念上右のそれぞれの類型にあてはまる形態・実質をそなえる刃物を指称するものと解すべきである。従って、たとえ刃渡が一五センチメートル以上あっても、右の観念にあてはまらない刃物は、同令にいう「刀剣類」にあたるものということはできないのである。ところで、本件の甲第四号証をみると、それは先のほうがすこしそった片刃の刃物で、刃渡は約一五・一センチメートルあり、木製の柄がつき、つばはなく、革のサックにはいり、そのサックをベルトにつけて腰に下げることができるようになっている。そして、この種の刃物は、従前から通常、船員用ナイフまたは登山用ナイフとして使用されているものと認められる。甲第四号証が「やり」「なぎなた」にあたらないことは、いうまでもない。さらに、それは「刀」「ひ首」「剣」のいずれにもあたらないものと認めるべきである。けだし、刃渡は所要の長さをもっているが、その形態・実質に照らし、社会通念上右のいずれの類型にもあてはまるものとみることが困難だからである。もっとも、甲第四号証は、前記昭和三〇年七月法律五一号による改正後の同令一五条にいう「あいくちに類似する刃物」にあたるものということはできよう。だから、現在では、甲第四号証を携帯することは、それが業務その他正当な理由によらない場合には、同条に違反し同令二七条の罪を構成することになる。しかし、前記改正前の同令一五条では、取締の対象となる「ひ首に類似する刃物」は、刃渡一五センチメートル未満のものに限られていたのである〔改正前の同条に「刃渡十五センチメートル未満の」というのが、「類似する刃物」にもかかる限定であることは、同条のみだしに(刃渡十五センチメートル未満の刃物の携帯の禁止)とあることによっても、明らかである〕。従って本件当時においては、甲第四号証は、その携帯が当時の同令一五条に違反しないかどうかを問題とする余地もなかったわけであって、まったく同令による取締の外にあったものといわなければならないのである。

そうすると、甲第四号証の所持を認定して前記のように同令一条・二条・二六条を適用している原判決は、法令の解釈適用を誤り、罪とならない事実について犯罪の成立を認めたものというほかはない。従って、本件については刑訴四一一条一号によって原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

そこで、同四一三条但書により、原判決の確定した事実(ただし第二の事実を除く)に法律を適用すると、原判示第一の事実は刑法一三〇条・六〇条に、同第三の事実は火薬類取締法二条三号・二一条・五九条二号、刑法六〇条に、各該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条・一〇条により、重い建造物侵入罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人四名を各懲役八月に処し、情状に照らし刑の執行を猶予するのを相当と認め、各被告人につき同法二五条を適用して本裁判確定の日からいずれも四年間刑の執行を猶予することとし、押収の緩燃導火線七本(甲第六号証)は原判示第三の犯罪行為を組成した物で被告人ら以外の者の所有に属さないから同法一九条一項一号二項によってこれを没収し、訴訟費用は刑訴一八一条一項・一八二条により第一、二審共全部被告人四名の連帯負担とする。

なお、本件公訴事実中銃砲刀剣類等所持取締令違反の点(原判示第二の事実)は、前記のように罪とならないから、刑訴三三六条により無罪の言渡をする。

よって、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本村善太郎 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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